大判例

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大阪地方裁判所 昭和32年(ワ)4950号 判決

原告

明治信用組合

右代表者代表清算人

武田準二

右訴訟代理人弁護士

阿部甚吉

平山芳明

右阿部訴訟復代理人弁護士

熊谷尚之

鬼追明夫

太田忠義

被告

株式会社今西商店

右代表者代表取締役

梶田秀夫

被告

梶田秀夫

右被告両名訴訟代理人弁護士

西田敬介

元原利文

右西田訴訟復代理人弁護士

松田滋夫

長池勇

被告

右代表者法務大臣

賀屋興宣

右指定代理人検事

山田二郎

右指定代理人法務事務官

松谷実

坂田暁彦

主文

被告株式会社今西商店、同梶田秀夫は連帯して原告組合に対し金四四、〇〇〇円及びこれに対する昭和二九年六月一六日より支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用はこれを四分し、その一を被告株式会社今西商店、同梶田秀夫の連帯負担とし、その余を原告の負担とする。この判決は第一項にかぎり原告において金二五〇、〇〇〇円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告等は原告に対し連帯して金二、一三二、五〇〇円及びこれに対する昭和二九年六月一六日から右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の負担とする。」

との判決並びに仮執行の宣言を求め、≪以下省略≫

理由

一、(証拠―省略)を綜合すると、別紙目録記載の品名、数量の物件(以下単に本件物件という)がもと被告株式会社今西商店(以下単に被告会社という)の所有に属していたところ、同会社が昭和二八年夏頃これを同会社の代表取締役である被告梶田秀夫の遠縁にあたる訴外石田勲に保管を託した。ところが当時訴外石田は原告組合から相当多額の金員を借受け、その返済に窮していたため、右物件を担保に差入れることを考え、まず右物件を訴外日本通運株式会社伊丹支店池田営業所(以下単に訴外日通という)に寄託し、同会社から別紙目録記載の倉荷証券四通の発行(大阪第九、四一八号ないし第九、四二〇号はいずれも同二八年年一二月一四日発行、第九、四一三号号は同年一一月二〇日発行)をうけ、これを同二八年一二月一五日原告組合に裏書譲渡し、もつて右物件を譲渡したこと、及び原告組合が現に右倉荷証券四通を所持していることが認められ、右認定を覆すに足る証拠がない。

従つて、同二八年一二月一五日以降における本件物件の所有者は原告組合と看られるところ、被告会社、同梶田秀夫は、

(一)  原告組合の訴外石田に対する貸金は原告組合の権利能力の範囲外の行為であるから、その貸金の担保として倉荷証券を譲受ける行為、従つて本件物件を取得する行為は無効である、

(二)  かりに然らずとしても、本件物件は訴外石田が窃取した物件であるから原告組合がこれを善意取得することはあり得ない、

と主張しているので検討してみるのに、右被告等は何等の立証もしないので、右主張を認めるに由なく、却つて、

(一)  前者については、(証拠―省略)を綜合すると、訴外石田は原告組合の地区内である大阪市北区堂島西町を住所及び営業所として原告組合に出資し(四〇〇口、金二〇〇〇〇円)、その組合員となつていたことが認められ、これに反する証拠がなく、また、

(二)  後者については、本件物件が訴外石田の横領した物件で、盗品でないこと先に認定したとおりであるから民法第一九三条の適用を受けないこと明らかである。

さらに、右被告等は種々の事情を挙げて、原告組合は本件物件を取得するにつき、訴外石田が無権利者であることを知つていたが、または知らないにしても過失があると主張しているが、これを認めるに足る証拠が何もなく、却つて、(証拠―省略)を綜合すると、訴外石田はその家族に対してさえ本件物件が自己所有の物件であるかのように振舞い、剰え、本件物件と同じように他の繊維品を譲渡担保として、原告組合以外の銀行等多数債権者から金員を借受け、その取引態度も別に異常と思われるような点も見受けられなかつたことが認められ、これを覆するに足る確証がない。

以上のような次第であるから、結局原告組合は訴外石田から本件物件の所有権を善意取得したものというべきである。

二、被告会社の申請にもとづいて、昭和二九年四月九日神戸地方裁判所伊丹支部が本件物件の現状不変更の仮処分決定をなし、同年五月二一日同裁判所所属執行吏訴外吉谷建二が本件物件を訴外日通の倉庫から被告会社の倉庫へ保管替をなし、同年六月七日同裁判所同支部が本件物件の換価命令を発し、それに基き右執行吏が本件物件を換価処分した(ただし、その日はのちに認定する)ことは当事者間に争いがない。そして、右換価命令に対し、原告組合が同二九年六月一二日に大阪高等裁判所へ即時抗告を申立て、その受理証明書を右執行吏役場に提出し(その日はのちに認定する)、一方訴外日通が同月一八日に神戸地方裁判所へ異議を申立てるとともに換価命令の執行停止決定を得て即日その決定正本を右執行吏役場へ提出したことは原告と被告国との間で争いのないところ、他の被告等は右の事実を争つているので検討してみるに、(証拠―省略)を綜合すると右に述べた事実がすべて認められ、これに反する証拠がない。

而して、その後、原告組合が前記仮処分に対し第三者異議の訴を提起したことは当事者間に争いがなく、(証拠―省略)に照らすと、同三〇年四月一一日大阪高等裁判所(控訴審)が、本件物件の所有者が原告組合であることを理由として、右仮処分執行不許の原判決を支持して控訴棄却の判決を言渡したことが認められ、右認定に反する証拠がなく、被告等は、右判決がその頃確定したとの原告組合の主張を明らかに争わないので、右事実を自白したものとみなす。そして、(証拠―省略)を綜合すると、右のように仮処分執行がゆるされないことが確定したにもかかわらず、既に前記のように換価処分が実行されているため、原告組合は訴外日通から本件物件の引渡を受けることがでがきず、結局右物件の時価相当の損害を蒙るに至つたことが認められ、これに反する証拠がない。

そこで被告等に原告組合の蒙つた右損害を賠償すべき責任があるかどうかについて判断する。

(一)  まず、被告会社同梶田秀夫の責任の有無について判断する。

(イ)  (証拠―省略)を綜合すると、被告梶田秀夫は被告会社の名において宝塚警察署に対し訴外石田を横領罪で告訴し、同警察署はこれをうけて同訴外人に対する捜査のため本件物件を差押えたが右訴外人が行方不明となつたような事情もあつて捜査が進展しなかつたため、右差押を解除する旨通知したところ、当時被告梶田は、右訴外人が訴外日通から本件の寄託物件について倉荷証券の発行をうけたうえ、既にその証券を担保として他に譲渡していること、すなわち第三者が倉荷証券を所有し、その者が本件物件につき引渡請求権を有することを知つていたので、その証券所持人に本件物件を取得されるのを免れるため、まず現状維持の仮処分決定を得たのち、民事訴訟法第七五〇条第四項に規定するような著しい価額の減少を生ずる虞れや、貯蔵に不相応な費用を生ずるなどの事情がなかつたにも拘らず、本件物件の保管替並びに換価処分をなし最後には競落人から同物件を買戻していることが認められ、右認定を覆すに足る証拠がない。以上の事実に鑑みれば、被告梶田は倉荷証券所持人の権利行使を阻害する意図のもとに、本件物件を換価処分に付したものと看られ、その所為は不法行為に該当するから、同被告は右所為により原告組合に与えた損害を賠償すべき責任がある。

(ロ) 被告梶田の右行為が、被告会社の代表取締役として為されたものであることは(証拠―省略)に照らして充分にこれを認め得るところであるから、商法第二六一条第三項、同法第七八条第二項、民法第四四条第一項により被告会社も亦被告梶田の原告組合に与えた損害を賠償すべき責任がある。

而して、右被告両名の責任は、共同不法行為に準ずべきものと解されるから、民法第七一九条を類推して連帯責任と解する。

(二) 次に、被告国の責任の有無について判断する。

原告組合の全立証に徴しても、訴外吉谷執行吏が被告梶田と共謀して違法な保管替あるいは換価手続を行つたと認めるに足る証拠がないので、被告国が被告会社若しくは被告梶田と共に不法行為責任を問われることはない。けれども、訴外吉谷執行吏が違法な職務行為を行い、それによつて原告組合に損害を与えているとすれば、それは被告国が単独で責任を問われることがある。そこで、同執行吏の職務行為が適法に行われたかどうかについて判断するのに、原告組合の全立証に徴しても、同執行吏の行つた仮処分執行が違法に行われたものと認めるに足る確証がない。次に、本件物件の換価処分が適法に行われたかどうかを検討してみるのに、(証拠―省略)に照らすと、換価処分は昭和二九年六月一五日に行われ、同日終了したことが認められ、これに反する証拠がなく、訴外日通が執行停止決定正本を右執行吏役場に提出したのは同月一八日であるから、右処分が違法でないこと明らかであるし、また(証拠―省略)を綜合すると、原告組合が即時抗告受理証明書を同月一四日、即ち換価処分の前日に右執行吏役場に提出したことが認められるけれども、執行機関の執行手続を停止するには、民事訴訟法第五五〇条所定の書面を提出した場合に限られるところ、右証明書は右法条所定の書面に該当しないから(したがつて、このような場合は民事訴訟法第四一八条第二項による裁判を経て、その正本を執行機関に提出するほかないと解される)、同執行吏が右証明書を知つているといないとにかかわらず、右換価処分には、原告組合主張のごとき違法がない。

以上のとおり、同執行吏は適法に職務遂行し、故意または過失により原告組合に損害を加えたものとは見受けられないので、結局原告組合の被告国に対する国家賠償法第一条にもとずく損害賠償の請求は失当である。

三、最後に、原告組合の蒙つた損害額について検討してみるのに、その損害額は、本件物件が換価処分に付せられた当時における時価をもつて定めるを相当と解するところ、原告組合の主張する損害額は倉荷証券記載の火災保険金額を指し、これが換価処分当時における時価と一致するものと認めるに足る証拠がないから(前掲甲第一ないし第四号証に照らしてみても、右保険金額は訴外石田の一方的申出によるものにすぎないことが認められる)、これをもつて本件物件喪失による損害額とは認め難く、寧ろ(証拠―省略)を綜合すると、被告会社においても換価処分当時における本件物件の時価を金八〇〇、〇〇〇円ないし金一、〇〇〇、〇〇〇円と見積り、また訴外石田が融資をうけたのもこの証券一通につき約金二〇〇、〇〇〇円(したがつて四通で約金八〇〇、〇〇〇円)であること、及び原告組合が前記第三者異議を提起するに当り定めた訴額、すなわち本件物件の価額が金八四四、〇〇〇円であることが認められ、右認定を覆するに足る確証がないから、右訴額をもつて換価処分当時における本件物件の時価と推認し、右金額すなわち金八四四、〇〇〇円をもつて損害額と認定する。尤もこの点について被告等は換価代金をもつて損害額とすべきであると主張しているが、換価代金が通常時価よりかなり低額であることは経験上明らかであるから、これをもつて損害額算定の基準とはなし得ない。

以上のとおりであるから、被告株式会社今西商店、同梶田秀夫は連帯して原告組合に対し前記損害金八四四、〇〇〇円及びこれに対する本件物件の引渡不能となつた前記換価処分の日の翌日である昭和二九年六月一日より支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払わなければならない。

原告組合のその余の請求は失当であるからいずれもこれを棄却する。

よつて訴訟費用につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。(裁判長裁判官牧野進 裁判官土橋忠一 岨野悌介)

目録(省略)

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